『MARIANNE FAITHFULL/A COLLECTION OF HER BEST RECORDINGS』

velvet-moon2005-02-27


私は女性ヴォーカルが大好きだと言える。そして、「女性ヴォーカル」というとまず浮かぶお方の中にマリアンヌ・フェイスフルは欠かせない。お小遣いでレコードを真剣に買い始めたのは中学生の頃。中学に上がる直前の春休みに母から買ってもらったビートルズ・ボックスが洋楽への入り口。そして、日増しに音楽、特に洋楽にのめり込んで行った。そして、音楽雑誌を買い求め隅から隅まで耽読していた。ラインを引いたりノートに書き出したり。美麗写真を模写してみたり...毎日が狂っていくかの様に。中学生の私は既にジョン・レノンデビッド・ボウイに夢中だった(ジョンは間もなくして死んでしまったけれど)。一枚ずつ少しずつ作品を集めた。お小遣いでは追いつかない欲求はラジオへ向かった。「FM fan」を毎日チェックし、気になる番組の為には早朝から深夜遅くまでエアチェックに費やしたものだ。レコードは少しずつ数を増すけれどカセット・テープはどんどん急速に増えていった。専用のノートを作りお気に入りの曲に一つ一つ感想を書いたりしていた。お家に遊びに来た友人には「おかしい。変わってるよ。」とからかわれたりしたけれど黙して一人遊びを続けていた。夜中ライナーノーツを読みながら異国へ夢を馳せた。ヘッドホーンで歌詞を追いながら知らない内に大きな声で歌っていた。夜中だと父に叱られた...昨日の事の様。

とても鮮明に懐古する事が可能なのは何故?見つけたから、夢中になれるものを。お陰で友人とのお付き合いは悪くなって行ったのは残念だったけれど。それでも早くお家に帰り音楽を聴きたかった。勉強中もずっと音楽が流れていた。そんな勉強の仕方を担任の先生は「現代病やな。」と笑った。叱られなくて良かった。そんな想い出達と一緒にマリアンヌ・フェイスフルという女性に惹かれて行った日々がある。最も多感な少女期に出会えたこの様な方々は忘れられない、決して!「MUSIC LIFE」の中に再発のレコード評を発見。その気怠く物憂い一枚のレコードジャケット。それは「ブロークン・イングリッシュ」だった。ブルー地に映る退廃的なお写真。すぐに飛びついた!ジョンの「ワーキング・クラス・ヒーロー」のカバーが入っていて嬉しかった。
そして、嗄れたお声とエレクトロな音。NEW WAVEなるシーンがラジオでも紹介され聴いていた頃なので全くマッチした。そして、それまでの経歴や作品を知るようになりミック・ジャガーが大嫌いになる!(ところが、数年後ハイドパークのライヴを観てすっかりファンに成るのだけれど。)

このベスト盤はその「ブロークン・イングリッシュ」で始まる。そして、唯一の60年代の収録曲「アズ・ティアーズ・ゴー・バイ」で終える。この17歳の初々しいお声を後から知った時とても驚いた。そして、マリアンヌ・フェイスフルという女性の生き様におののきと感銘を受けていく。貴族の血統、その高貴な気品と可憐な美貌から真っ逆様にスキャンダルにまみれどん底へ。でも生きていた!死のうと何度も思っただろう。悪夢を見た者は道は分かれるだろう。でも、マリアンヌは生きる事を選んだのだ。底から這い上がる様を思うと胸が締め付けられる程だった。私には到底持ち合わせていない強靱な意志、精神力に憧れた。ミックとのカップルは最高にお似合いだったと思う。でも、その破綻、裏切りから傷付いた心。ドラッグやアルコールでボロボロになる身体。可憐な容姿は次第に哀しみを帯びた堕天使の様に変貌して行く。でも同時にアーティスト:マリアンヌ・フェイスフルは成長して行き今も圧倒的な存在感を誇っているのだと。呪詛とさえ称されるあのお声は深みを増しますます唯一無二な存在に。決して気品は失せないまま。

この作品中には「SHE」という1994年当時の新曲が収録され、さらに忘れてはならない曲が!パティ・スミスの「ゴースト・ダンス」を取り上げているのだ。パティはマリアンヌ様の大ファンだから嬉しかっただろう。そして、この曲のプロデュースはキース・リチャーズ!(&ドン・ウォズ)だという事に狂喜乱舞。長いキャリア同士、色んなトラブルを経験し同じ時を過ごした古い悪友の様なキースとまたお仕事を一緒にされたのだから。お二人の笑顔で写るツーショットを同時期に拝見することが出来た...とてもとても素敵だった。そして嬉しかった。

[1994] MARIANNE FAITHFULL ★ A COLLECTION OF HER BEST RECORDINGS